電子ビーム溶接の原理
電子ビーム溶接は上の写真のような幅が狭くて深さが非常に深い溶接をすることができます。このような溶接ができる原理や装置の概要について説明します。
電子ビーム溶接機の概要
電子ビーム溶接機は電子銃,真空チャンバー、排気系,ワーク駆動装置、高圧電源、制御盤等で構成されています。
溶接用の電子銃は通常トライオード(三極)システムを採用しています。電子銃の最上部に位置する電子ビームの発生部はカソード(陰極)、ウェーネルト電極(グリッド)、アノード(陽極)で構成されています。電子は電子銃内のカソードから熱電子として取り出され,筒状のアノードで加速されます。フィラメントとアノードの電位差は数10kVから150kVです(アノードはアース電位)。この電位差によって電子は光の速度の約2/3の速さまで加速されます。
ビーム電流はフィラメントとアノードの中間に設けられたウェーネルト電極の電圧によって制御されます。EB発生部の下部にはビーム形状補正用のスティグマトール(非点補正装置)、集束レンズ、偏向コイルがおよび観察系が設置されていいます。加速された電子は電磁コイルによって収束されます。収束した電子ビームの直径は1mm以下で、エネルギー密度は10〜100kW/cm2です。
電子ビームによる加熱
電子銃の中で電子は光のおよそ2/3の速度に加速されます。この電子は母材に照射されると表面のごく短い距離を透過した後結晶格子電子や電子に衝突してエネルギーを失います。この課程で、電子銃から出た電子のエネルギーは母材中の電子の電子に伝えられ、最終的に格子電子の振動を増すため母材は加熱されます。
電子ビーム溶接機におけるビームのスポット径は0.2mm程度で、収束したビームのエネルギー密度は1平方センチメートル当たり10の7乗Wです。これは普通の溶接に用いられるアークの約1000倍の強さとなります。また、電子ビームによる加熱速度は1秒間に1000から10000℃です。これらはデフォーカスやビームのオシレーションをすることによって容易にコントロールでききます。
電子ビーム溶接のエネルギー効率
照射した電子の一部は散乱したりX線や赤外線を放出したりすることに使われますが、ビームのエネルギーの90%程度は熱に変換されます。
また、装置全体で見ても標準的な大きさの装置の場合、全投入エネルギーの約50%が加熱エネルギーとなります。これはレーザーの発振効率(炭酸ガスレーザー<20%、固体レーザー<5%、半導体レーザー<30%)に比べて高い数字です。
深溶込溶接の原理
金属に電子ビームが照射されると短時間で照射された部分を加熱します。このとき、ビームのエネルギー密度が高いと加熱部の温度は容易に物質の蒸発温度以上に上がります。ビームの貫通深さは相手が固体や液体のままであるとわずかですが、蒸気はこれらよりはるかに密度が小さいのでビームは容易に深くまで進入でき、キーホールを形成します。このキーホールは電子ビームの出力に応じて100mm以上も材料内部に浸透して行くことが可能で、他のアーク溶接(熱伝導型の溶接)とは全く違う電子ビーム溶接特有の深溶込み現象が起こります。
電子ビーム溶接は特長的な狭いビードが得られるだけでなく、アーク、抵抗溶接及びレーザー溶接と比較して極端に歪が少なくなります。
また、電子ビーム溶接は通常真空で行なわれます。このため他の溶接法に比較して清浄な溶接金属と良好な溶接ビードを得る事ができます。